Pythonで学ぶマクロ経済学 (中級+レベル)#
import datetime
dt = datetime.datetime.now()
print('Version:',dt.strftime('%Y年%m月%d日'))
Version: 2024年10月04日
本サイトに関するコメント等はGitHubのDiscussionsもしくはharuyama@econ.kobe-u.ac.jpにご連絡ください。
姉妹サイト:「Pythonで学ぶ入門計量経済学」 🐍
はじめに#
本サイトの目的は2つある。第一に,学部中級+レベル(「+」は中級より少し進んだという意味)のマクロ経済学をとおしてPython
を学び,Python
をとおしてマクロ経済学を学ぶ(復習する)ことである。大学での経済学教育は主に講義でおこなわれる。モデルの展開と解説,データが紹介されるが,私もそうだったように「そういうものなんだ」と納得はするが,経済学との間になんとなく「距離」を感じる学生が多いのではないだろうか。その距離を縮めるために,演習や数値例を使った宿題があり,その役目はある程度果たしている。その距離を更に縮めようというのが本サイトの目的である。Python
を使うことにより,学生自身がデータを操作し,データの特徴を確認できる。回帰分析も簡単におこなうことができる。更に,Python
はデータだけではなく理論モデルの理解にも大いに役立つ。異なる政策がもたらす均衡への影響を数値化し,簡単に計算することができる。また複雑なマクロモデルの均衡の動学的な動きを視覚的に確認し,政策などのパラメータにどのように反応するかも一瞬で確認することができる。それもパラメータの値や組み合わせの変更も自由自在である。即ち,マクロ経済学のハンズオン(hands-on)が可能となる。ハンズオンこそが今の授業で足りないものであり,学生のマクロ経済学の理解と興味を深め「距離」を更に縮めることが期待できるのではないだろうか。
第二に,経済学部の学生に今後変わりゆく社会に少しでも対応できるように,transferable skillになり得るプログラミングを身につける機会を提供することである。新聞,雑誌やインターネット上で「AI」や「機械学習」などプログラミングに関するキーワードを頻繁に見聞きする。これは一過性の流行りではなく,社会全体がデジタル化する大きなうねりの「大音」である。実際,政府もプログラミングの重要性を強く認識している。2020年度からは小学校でプログラミング的思考を育成する学習指導要領が実施され,続いて中高教育でもプログラミングに関する内容・科目が充実される予定である(文部科学省の参照リンク)。このようにプログラミングのスキルの重要性は益々大きくなると思われる。一方,今の経済学部の学生は,デジタル化による社会のうねりとプログラミング教育の盛り上がりの狭間にあり,プログラミングの「プの字」も知らずにデジタル化社会へ飛び込むことになりかねない。学生にとって卒業後の社会は「人生の本番」であり,その準備を少しでも手助けするのが教育の役割ではないだろうか。もちろん,近年一般教養科目としてプログラミング科目が導入されている大学も多くある。しかし専門科目として提供することにより専門性とプログラミングの「いいとこ取り」を提供できる機会を利用しないのは,経済学でいう「非効率的」な教育になってしまう。
では,なぜPython
なのか?プログラミング言語は無数に存在し,それぞれ様々な特徴があり,お互いに影響し合い進化している。その過程で広く使われ出す言語もあれば廃れていく言語もある。その中でPython
は,近年注目を集める言語となっている。それを示す一つの参考指標として2021 Kaggle Machine Learning & Data Science Surveyを紹介する。
棒グラフのコード
import japanize_matplotlib
import matplotlib.pyplot as plt
import pandas as pd
# load .csv
df = pd.read_csv('kaggle_survey_2021_responses.csv', header=1, dytype=object)
# 関連する列を抽出し,それぞれの言語の回数を計算
lang = df.iloc[:,20].value_counts().reset_index()
lang.columns = ['language','no']
lang = lang.query('language != "None"').sort_values('no').reset_index(drop=True)
lang['language'] = lang['language'].replace('Other','その他')
# プロット
fig, ax = plt.subplots(figsize=(6,9))
ax.barh(y='language', width='no', height=0.8, color='blue', data=lang)
ax.set_xlabel('回答回数', size=16)
ax.set_title('データサイエンティストを目指し\n初めてプログラミングを学ぶ人に\nどの言語を薦めますか?\n', size=25)
# 上と右の枠を削除
for s in ['top', 'right']:
ax.spines[s].set_visible(False)
# 棒の先に数字を追加
for i in ax.patches:
ax.text(i.get_width()+300.0, i.get_y()+0.3,
str(round((i.get_width()), 2)),
fontsize=13, fontweight='bold',
color='k')
# 縦軸のラベルのサイズ
ax.yaxis.set_tick_params(labelsize=17)
ax.xaxis.set_tick_params(labelsize=12)
# 縦横軸とラベルの間隔の調整
ax.xaxis.set_tick_params(pad=7)
ax.yaxis.set_tick_params(pad=10)
Google合同会社の子会社であるKaggleは,データサイエンスや機械学習などに関連する課題を解決するためのコンテストがおこなわれる有名なオンライン・コミュニティであり,課題には賞金が設定され世界中からの参加者が切磋琢磨して競争する。2021年におこなわれたKaggle参加者へのアンケートの中に「データサイエンティストを目指し,初めてプログラミングを学ぶ人にどの言語を薦めますか?」の質問があり,その回答結果がFig. 1である。24,829の回答中(重複回答含む)81.4%がPython
を選んでおり,Python
のひとり勝ち状態である(2020年のアンケート結果では80.3%)。もう一つの人気指標としてStack Overflow(プログラミングに関する質問をすると参加者が回答する定評あるサイト)が集計するデータがある。それによると2012年頃からPythonの人気は急上昇している(図はこちらを参照)。次にプログラミング言語のランキングで世界的に有名なTIOBE programming community indexを紹介しよう。2021年10月に更新されたサイトは次の文章から始まっている。
For the first time in more than 20 years we have a new leader of the pack: the
Python
programming language. The long-standing hegemony ofJava
andC
is over.
(訳)20数年ぶりに群れのニュー・リーダーが現れた。
Python
プログラミング言語である。長く続いたJava
とC
の覇権は終わった。
Python
の人気はどこにあるのだろうか?まず最初の理由は無料ということだろう。経済学研究でよく使われる数十万円するソフトと比べると,その人気の理由は理解できる。しかし計量経済学で広く使われるR
を含めて他の多くの言語も無料であり,それだけが理由ではない。人気の第2の理由は汎用性である。Python
はデータ分析や科学技術計算だけではなく,ゲーム(ゲーム理論ではない),画像処理や顔認識にも使われている。また多くの人が使うYouTube,InstagramやDropBoxもPython
で開発されているのは有名である(DropBoxのコードは100万行以上あると言われている)。第3の理由は,学習コストが比較的に低いことである。Python
のコードは英語を読む・書く感覚と近いため,他の言語と比べて可読性の高さが大きな特徴である(日本語に近い点もある)。これらの理由が上で紹介した結果に反映されていると考えられる。もちろん,Python
の文法や基本的な関数を覚える必要があるが,相対的に最も初心者に易しい言語と言われており,スタートアップ企業にも人気がある。他にも理由はあるが,Python
はIT産業だけではなく金融・コンサルティング・保険・医療などの幅広い分野で使われており,データ分析の重要性が増すごとにより多くの産業で使われると思われる。経済学部の大多数の卒業生は幅広い産業で働くことを考えると,社会全体で注目され今後より多くの産業で使われることが予想される言語を学ぶことは有意義ではないだろうか。
本サイトは4部構成となっている。第1部では,経済学の例をまじえてPython
の基礎について解説する。第2〜4部が本サイトの核心であり,Python
を使い学部中級+レベルのマクロ経済学について解説するとともに,Python
コード自体の説明も適宜おこなっている。マクロ経済学の内容としては,第2部が経済成長や所得分布などを扱う長期的な分析となっており,第3部は景気循環に焦点を当てた短期分析であり,学部中級レベルの内容を少し発展させた内容となっている。第4部は,更に踏み込んで大学院レベルの短期分析のトピックを熱心な学部生にも理解できるように解説することを心掛けた。より具体的には,Python
の特性を生かしマクロ・データを使った回帰分析や動学的なモデルを展開する。ソロー・モデルや学部レベルの標準的なモデルになりつつあるIS-MP-PCモデルはもちろん,ADASモデルを使ったカリブレーション,実物的景気循環モデルやニューケインジアン・モデルについても学部生目線で解説する予定である。(従って,大学院生には物足りない内容となるが,直感的に理解するには有用であろう。)第5部では,参考になるトピックを集める計画である。
学生のコメント#
本サイトは神戸大学経済学部での「プログラミングと経済分析」の教科書として使用した(もう一つの教科書は「経済学のためのPython入門」)。その際の自由記述アンケートの内容を一部紹介する。
2022度後期(履修登録者243名)
経済分析を行う際にどのようにプログラミングを活用すれば良いかを丁寧に教えて頂け,今後卒業論文を執筆する際にも是非参考にしたいと思います。
プログラミングで完結することなく,それを経済分析に応用するという点で大変勉強になる授業でした。
(他の)授業でどのようなデータを用いているのかが直感的に分かり良かった。
プログラミングを自主的に学ぼうと思えるきっかけになりました。
初めてプログラミングを学んで難しさと面白さの両方を経験できました。今後も必要なスキルとして機会を見つけて学びたいと思います。
これまでプログラミング学習にハードルを感じていましたが,授業として取り組むことで習慣的に取り組む時間ができ,少し理解ができるようになりハードルが下がりました。
プログラミングにとても関心があったのでこの講義を楽しく受けることができました。
プログラミングに触れたのは,本講義で初めてだったのだが,非常に分かり易く丁寧だったのでよても良かった。
ゼミでデータ分析を行なっているので今後もつづけていきたい。
Pythonというプログラミングの中でもよく使うものの学習ができてよかった。
説明はとても分かりやすかったので理解することができました。4ヶ月間ありがとうございました。
資料や練習問題,動画などを全て公開していただいたので,勉強しやすいなと感じました。
本サイトで使うPythonとパッケージのバージョン#
import matplotlib, numpy, pandas, py4macro, scipy, statsmodels, wooldridge
from platform import python_version
packages = ['Python', 'matplotlib', 'numpy','pandas', 'py4macro', 'scipy', 'statsmodels', 'wooldridge']
versions = [python_version(), matplotlib.__version__, numpy.__version__, pandas.__version__, py4macro.__version__, scipy.__version__, statsmodels.__version__, wooldridge.__version__]
for pack, ver in zip(packages, versions):
print('{0:14}{1}'.format(pack,ver))
Python 3.12.6
matplotlib 3.9.2
numpy 2.1.1
pandas 2.2.3
py4macro 0.8.13
scipy 1.14.1
statsmodels 0.14.4
wooldridge 0.4.5
Economists(経済学を勉強する人も含めて(?))と付き合わない方が良い21+\(\alpha\)の理由
for an interactive Jupyter Notebook session with empty code cells.